平成26(2014)年の会社法改正により導入された監査等委員会設置会社への移行について法務部門の視点から検討します。
(1)監査等委員会設置会社の増加
監査等委員会設置会社は、3名以上の取締役で構成された監査等委員会により、取締役の業務執行を監査する株式会社です。その導入から10年以上が経過しましたが、毎年着実に監査等委員会設置会社に移行する企業が増加しており、2025年8月1日集計の「上場企業のコーポ―レートガバナンス調査」(日本取締役協会)によれば、東証プライム市場における監査等委員会設置会社の割合は48.2%にまで達し、とうとう監査役会設置会社の割合(46.8%)を超えました。
(2)移行増加の背景
監査等委員会設置会社が導入される前、平成14年の商法特例法改正によって委員会設置会社(現在は、指名委員会等設置会社)制度が導入されましたが、委員会設置会社は多くの会社で採用されませんでした。その理由として、社外取締役によって構成される指名委員会や報酬委員会によって役員の選任及び報酬等が決められることへの抵抗感などが原因とされますが、その後、平成26年、中間的な組織形態として監査等委員会設置会社が導入されました。特に、①社外役員選任の重複感・負担感を解消できる、②海外の投資家から理解されやすい、③重要な業務執行の決定権限を取締役に委任できる、といった利点により、監査等委員会設置会社へ移行する企業が増加している背景にあると言われています。
(3)監査等委員会導入のメリット
① 意思決定の迅速性・機動性を高めることができる
監査等委員会設置会社では、取締役の過半数を社外取締役とするか、または定款に定めることにより、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができます(会社法399条の13第5項)。重要な業務執行の決定権限を取締役に委任すれば、経営判断の迅速性・機動性を確保することが可能となります。取締役会の権限を移譲をしてモニタリングモデルを採用するか、または移譲せずにマネジメントボード(オペレーティング型)とするかは自由ですが、近時、監査等委員会設置会社に移行する会社がモニタリングモデルを採用して当該メリットを重視するケースも多いと思われます
② ガバナンス・コンプライアンス体制を強化できる
上記①とも関連しますが、取締役への権限移譲の結果、取締役会が監督機能(経営のモニタリング機能)を十分に発揮することを期待することができます。また、取締役会における議決権を有する監査等委員によって構成される監査等委員会による内部統制システムを活用した組織的な監査体制を構築、強化することができます。これによって、ガバナンス・コンプライアンスの両面を強化することが可能と言えます。
③ 社外役員選任の負担感・重複感を解消できる
監査役会設置会社が社外取締役を設置するとなると、2名の社外監査役に加えて社外取締役を選任することにならざるを得ませんが、最低でも3名の社外役員を確保する必要があることに加えて、社外監査役と社外取締役との職務・職責も類似しており、人材の重複感がありました。しかし、監査等委員会設置会社であれば、監査役を置く必要はなく、2名以上の社外取締役を設置すれば足ることになり、社外役員選任の負担感・重複感を解消できます。
④ 海外の機関投資家等からの理解を得やすい
海外の機関投資家等からは、監査役制度が日本独自の制度であり、特に取締役会における議決権のない監査役による監査の実効性には疑問の目が向けられていました。監査等委員会制度は、議決権を有する監査等委員によるガバナンス体制であり海外の機関投資家等から理解され易いというメリットがあります。
(4)監査等委員会導入のデメリット
次に、監査等委員会設置会社の考えられるデメリットについて検討します。
① 移行時のコスト
監査等委員会設置会社に移行するためには、社内で移行のプロジェクトを立ち上げ、移行後の体制等を検討する必要があります。そして、定款変更案を作成して株主総会の承認を得て、取締役会規則や監査等委員会規則など関連する社内規則を整備し、コーポレートガバナンス報告書など開示関連にも対応する必要があるなど、多くの手続きを要します。当然、相応の時間とコスト、労力がかかる点がデメリットと言えます。
② ガバナンス機能の低下リスク
監査役設置会社では常勤監査役の選定が義務付けられているが(会社法390条2項)、監査等委員会設置会社では、必ずしも常勤の監査等委員を置く必要はありません。また、監査役は独任制が取られ、各監査役が独立して監査権限を行使することができますが、監査等委員には独任性は認められておらず、監査等委員会という会議体として権限を行使することになります。監査等委員会設置会社において取締役に重要な業務執行に関する権限を委譲することで、意思決定過程における監査機能を発揮できない可能性もあります。このように、監査等委員は監査役と比べて、一定のガバナンス機能の低下リスクが指摘されることがあります。
(5)「監査等委員会の調査業務」と法務機能
監査等委員会が選定する監査等委員は、いつでも、取締役及び使用人等に対してその職務の執行に関する事項の調査を求め、又は会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます(会社法399条の3第1項)。また、監査等委員会が選定する監査等委員は、子会社に対して事業の報告を求め、その子会社の業務及び財産の状況を調査する権限があります(同上第2項)。監査等委員は、これらの権限を適切に行使する必要があります。
そして、監査等委員の具体的な業務監査の内容及び方法ですが、2023年4月17日付の公益社団法人日本監査役協会「新任監査等委員ガイド<第2版>」が参考になります。同ガイド72頁では、監査等委員の監査のポイントとして、①「企業風土はどうか。風通しは。隠蔽体質はないか。」②「取締役の善管注意義務・忠実義務違反はないか。」、③「体制・組織はどうか。」、④「関係法令等の把握・周知・徹底は的確か。」、⑤「法令違反行為等の問題の発生状況はどうか。発生した問題への対応は適時・的確か。」、⑥「モニタリングの体制・仕組みはどうか。誰が責任者か。」、⑦「その他法令等遵守関連の問題はないか。」と7つのポイントが掲げられています。
このように、監査等委員の調査業務の範囲が非常に広範に亘っており、会社全体の適法性・妥当性を監査することが分かります。特に、上記②、④、⑤など、法務部門の業務内容と関連性が強く、法務部員の興味・関心と重なりあうポイントであると言えます。この点、監査等委員は、過半数が社外取締役であって自社の事業に精通している訳ではなく、かつ必ずしも法務・コンプライアンスの知見・素養を有しているとは限りません。そこで、自社の事業等について精通し、法的素養を十分に備えた法務部員が、監査等委員による業務監査をサポートする必要と実益があると言えます。
(6)「監査等委員の報告業務」と法務機能
監査等委員は、取締役の不正行為、法令・定款違反や著しく不当な事実があるときは、遅滞なく、取締役会に報告しなければなりません(会社法399条4)。上述したとおり、監査等委員は取締役として取締役会における議決権を有します。監査等委員による取締役会への報告により取締役会が当該事実を認識・把握することになります。これは、法務部門だけが通常業務の中で法令違反等に関する事案に対応した場合と比べて強力な効果があると言えます。監査等委員による監査業務に法務部門が適切に寄与することができれば、取締役会のメンバーに直接事案を伝えることが可能となり、法務機能を会社全体で発揮する機会です。
また、監査等委員は、取締役が株主総会に提出しようとする議案や書類等に法令・定款違反や著しく不当な事項があるときは、株主総会に報告しなければなりません(会社法399条の5)。さらに、監査等委員は、取締役の職務の執行に関し、不正行為や法令・定款違反の重大な事実があったときは、その事実を、監査報告に記載しなければなりません(会社法施工規則130条の2第1項②、123条第1項③)。上記のように、法務部門が監査等委員の監査業務に有効適切に寄与・関与することができれば、監査等委員の監査報告の作成権限を通じた法務機能の発揮も期待できます。
(7)「監査等委員会の差止請求権等」と法務機能
監査等委員は、取締役が会社の目的の範囲外の行為など法令・定款に違反する行為をしたり、又は行為を行うおそれがあり、その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対しその行為をやめることを請求することができます(会社法399条の6①)。
具体的な権利行使の方法としては、監査等委員が問題となる取締役の行為を認識した場合、当該取締役や関係者に対して説明を求めた上で、口頭や書面、あるいは取締役会を通じて当該行為を取り止めるように請求することが想定されます。それでも、取締役が行為を止めない場合、監査等委員は、民事保全法23条2項に基づき、差止請求訴訟を本案とする仮処分命令を申し立てることを検討する必要が生じます。
裁判上の仮処分を求めるというのは、強制的かつ強力な手段であり、同申立てをするかは慎重に検討する必要があり、法務部門が監査等委員に対し、権利行使に関する法的な考え方や権利行使の帰結、申立後の流れなどの法的事項に関する理解・判断をサポートすることが望まれます。
(8)「監査等委員会の企業不祥事対応」と法務機能
企業不祥事の発生時は、監査等委員会も重要な役割を担います。監査等委員会は、企業不祥事が発生した場合は直ちに取締役等の報告や、社内の調査委員会や及び独立性を有する外部の第三者委員会の設置を積極的に求め、事実関係の把握や原因究明、損害の拡大防止等に関する対応を監視し、検証しなければならないとされます(公益社団法人日本監査役協会 監査等委員会監査等基準第30条)。
企業不祥事発生時、法務部門も上記の監査等委員会の責務と同様、関係部署と連携して、事案の解明、原因の把握、損害拡大の防止、再発防止措置等について検討して速やかに対応していくことが求められます。まさに、企業不祥事の発生時は、まさに監査等委員会と法務部門が連携して事案の対応に当たっていくことが望ましい場面と言えます。
(9)法務部門と監査等委員会とのコミュニケーション
上記のような形で法務部門が監査等委員会に寄与するためには、現実的には、日頃から法務部員と監査等委員(監査等委員会の補助使用人、スタッフ等)と密なコミュニケーション及び連携が必要不可欠です。監査等委員会における補助使用人(スタッフ)の人数は平均2.03人とされ(日本監査役協会 月刊監査役No.745)、専属又は兼務のスタッフを設置している会社も多いと思われます。法務部門としては、上記で述べたような法務機能の発揮の仕方を念頭に、日頃から積極的に監査等委員あるいは同スタッフと意思疎通を図り、調査時や不祥事等の発生時などに効果的な連携が取れるような体制を整えておくことが重要です。
(10)結び
近時、移行する企業が増えている監査等委員会設置会社の特徴やメリット・デメリットを検討すると共に、監査等委員の具体的な業務内容・権限を俯瞰することで、監査等委員を通じた法務機能の発揮の可能性について検討しました。
実務上、法務部門が監査等委員の業務にどこまで関与できるかと点では大いに課題があると思います。他方で、監査等委員会の職務権限は非常に広範かつ強力であることに鑑みると、法務部門の立場からすれば、監査等委員の権限を通じて法務機能を発揮する可能性を模索することは非常に有意義です。今後、益々の増加が予想される監査等委員会設置会社ですが、まだ歴史の浅い機関設計でもあり、法務部門が十分に存在意義を発揮していく可能性が秘められた制度であると感じているところです。

