組織再編における自己株式と財源規制の論点:株式移転後の親会社株式の取り扱い

企業グループの組織再編、特に株式移転(会社法第773条以下)を実施する際、関係会社が保有する自己株式や親会社株式の取り扱いは、法務上複雑な論点となります。

今回は、株式移転の過程で生じる自己株式の処理方法と、その後に子会社が保有することとなる親会社株式を親会社が取得する際の財源規制について解説します。

Contents

1.自己株式を保有する会社が株式移転をする場合、自己株式はどう処理されるか?

(1) 株式移転とは:

株式移転とは、既存の株式会社(完全子会社となる会社:以下「B社」)の株式をすべて新たに設立する株式会社(完全親会社:以下「A社」)に取得させ、B社の株主に対してA社の株式を割り当てる組織再編行為です。

(2) 株式移転に伴う自己株式の取り扱い:

このB社が、株式移転の時点で、B社自身の株式(自己株式)を保有していた場合、その自己株式はどうなるでしょうか。

答えは、

・B社自己株式は、株式移転に伴い、親会社となるA社が取得することになります。

・一方で、B社は、その対価としてA社株式の割当を受けることになります。

・結果として、B社は、A社株式(親会社株式)を保有している状態となります。

(3) 親会社株式取得の禁止(原則)と株式移転によって生じる親会社株式の取得の適法性(例外)

そもそも、子会社(B社)が親会社(A社)の株式を取得すること(親会社株式の取得)は、原則として会社法第135条第1項により禁止されています。

しかし、株式移転に伴い親会社株式を取得する場合は、この禁止の例外として許容されています。

具体的には、株式移転に際して、子会社が有する自己の株式と引換えに親会社株式の割当てを受ける場合は、親会社株式の取得が許容される、とされています(会社法第135条第2項第5号および会社法施行規則第23条第3号)。

もっとも、この例外も無制限ではなく、例外規定により親会社(A社)株式を保有した子会社(B社)は、相当の時期にその親会社(A社)株式を処分しなければならない、と義務付けられています(会社法第135条第3項)。

2.株式移転後に、子会社が保有する親会社株式を、親会社が子会社から取得する場合の財源規制

(1) 親会社株式の処分と財源規制の関係性:

株式移転によって子会社(B社)が保有することになった親会社株式(A社株式)を、上記1(3)の「相当の時期」に処分する方法としては、親会社(A社)が子会社(B社)から自己株式(A社株式)を取得するケースが想定されます。

この場合、親会社(A社)が自己の株式を取得する際に、財源規制(分配可能額の制限)が適用されるかどうかが重要な論点となります。財源規制とは、会社が一定の財産流出行為等をする場合に、その流出額等が、会社の分配可能額を超えてはならない、というルールです。

財源規制(分配可能額の制限)は、主に以下のの2つの切り口から確認が必要となります。

 ① 剰余金の配当  (主体:B社)

 ② 自己株式の取得(主体:A社)

また、財源規制の確認にあたっては、上記で主体となる法人(A社又はB社)の貸借対照表等に基づいて行うことになります。つまり、自己株式の取得(主体:A差h)、という切り口では、A社の財源規制(分配可能額)が確認対象となります。

(2) 手法によっても財源規制の適用が変わる:

さらに、親会社株式(自己株式)の取得方法が、どのような法的根拠に基づくか、によっても、財源規制の適用有無が変わってきます。

ⅰ. 会社法第163条に基づく子会社からの自己株式取得である場合

仮に、A社によるA社株式の取得が、会社法第163条(子会社からの株式の取得)に基いて行われる場合、その取得の対価について、財源規制が適用されます(第461条第1項第2号)。

なお、財源規制からは少し話がそれますが、会社法第163条は、親会社(A社)が子会社(B社)の有するA社株式を取得する場合について、その手続の簡略化を定めたものです。自己株式取得に関する決定事項の決定を、取締役会設置会社では取締役会決議(≠ 株主総会決議)事項とすることのほか、通常(特定の株主から)の自己株式取得の場合と違い、会社法157条から160条までの規定(手続的な規制)は適用しないとしています。

ⅱ. 会社法第163条に基づく自己株式の取得ではない場合(剰余金の配当を利用する場合)

子会社(B社)が保有する親会社株式(A社株式)の処分を、B社によるA社に対する現物配当(剰余金の配当)という形式で行う場合(会社法第155条第13号及び会社法施行規則第27条第2号)、つまり、B社を主体とした現物配当の結果として、A社が自己株式の交付を受けて取得する形式する場合があります。

この場合には、ⅰのケースと異なり、会社法上、財源規制の対象となりません。

親会社(A社)における財産流出がない、と考えられるからです。

なお、上場会社の自己株式の取得に関するリリース等において、「会社法第163条の規定により読み替えて適用する会社法第156条第1項の規定による自己株式の取得ではありません」と明記されることがあるのは、当該取得が上記ⅰのケースではなく、ⅱのケースであり、そもそも財源規制の対象とならない取引であることを明確にする趣旨となります。

まとめ

自己株式を保有する会社が株式移転を行う場合、その自己株式は新設する親会社に引き継がれ、子会社は親会社株式を保有することになります。

この親会社株式を「相当の時期」に処分するため、親会社が現物配当により取得するスキームを採用する場合には、親会社側の自己株式取得については財源規制は適用されません。

組織再編後の自己株式や親会社株式の取り扱いは、適用される条文やスキームによって、財源規制の有無や手続きが大きく異なります。関係会社間での複雑な資本取引を計画する際は、事前の詳細な法的検討が不可欠です。

執筆者

弁護士 赤松 平太のアバター 弁護士 赤松 平太 パートナー弁護士

M&A、事業再生、企業間・経営権争奪紛争、上場規制対応、株主総会対応。ベンチャーファイナンス、組織再編、企業間契約、事業承継にも注力。

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